山形地方裁判所 昭和58年(モ)257号 決定 1983年9月12日
申立人 社団法人 全国宅地建物取引業保証協会
右代表者理事 須永正臣
右訴訟代理人弁護士 雨宮真也
同 川合善明
同 島田康男
同 緒方孝則
相手方 鎌田悌治
右訴訟代理人弁護士 脇山弘
同 脇山淑子
右訴訟復代理人弁護士 佐藤欣哉
主文
本件訴訟を東京地方裁判所へ移送する。
理由
一 申立人は主文同旨の裁判を求め、その理由として次のとおり主張した。即ち、申立人の普通裁判籍はその主たる事務所の所在地たる東京都千代田区東神田一丁目一〇番六号にある。申立人は各都道府県に従たる事務所を置いているが、この従たる事務所においては認証申出の受付及び概括的審査をするものの、全ての認証申出の案件は、主たる事務所に送付されたうえ、同所において弁済業務委員会、弁済業務中央審議会の審査を受けた後、会長が認証申出の可否の最終決定をするのである。申立人の従たる事務所には認証申出の可否を独立して決定する権限は与えられていない。
したがって、本件訴訟に関する申立人の認証業務は右従たる事務所におけるものということができないから、本件訴訟は山形地方裁判所の管轄には属しない。
二 当裁判所の判断
1 記録によれば、申立人の主たる事務所は東京都千代田区東神田一丁目一〇番六号にあることが認められるから、申立人の普通裁判籍所在地の東京地方裁判所に本件訴訟の管轄があることは明らかである。
2 そこで本件訴訟が山形市六日町八番二四号所在の申立人の従たる事務所における業務に関するものであるか否について検討するに、記録によれば、申立人の会員と宅地建物取引業に関し取引をした者が、右取引によって生じた債権の弁済について権利を実行しようとするときは、右会員の所属する申立人の地方本部に認証申出書を提出すべきこと、右申出を受理した地方本部長は債権発生の原因である事実を調査し、認証の可否について審査したうえ、認証意見書を作製し、認証申出書とともに中央本部の会長宛提出すべきこと、会長は地方本部長の提出資料に基づき、必要に応じて弁済業務中央審議会の議を経て認証すること、その際、中央本部の弁済業務委員会は地方本部から出された案件を集中的かつ専門的に審査し、会長が直接認証若しくは認証拒否の決定をなすに足りる結論を出すべきものとされていること、同委員会はその目的を達するため弁済業務地方審議会に対して必要に応じて追加資料の提出若しくは再調査を求めることができることとされていることが認められる。そして本件訴訟に関する業務とは右認証事務と解されるところ、右認定事実によれば、申立人の従たる事務所である各地方本部では認証申出の受理、認証の可否について資料収集、調査及び意見具申などの事務を行っているが、認証の可否についての最終判断権は会長にあって、これに関する事務は主たる事務所である中央本部において行われており、従たる事務所である地方本部が右認証事務の全部又は一部を独立して行っているものということはできない。したがって申立人の前記従たる事務所は本件訴訟に関して民事訴訟法第九条所定の事務所に該らないから、本件訴訟は当裁判所の管轄には属しないものというべきである。
三 よって、民事訴訟法第三〇条第一項により本件訴訟を東京地方裁判所へ移送することとして、主文のとおり決定する。
(裁判官 下澤悦夫)